輸配送を効率的にデザイン!スルー配送のメリット・デメリット | 東運輸グループ
2023.12.27
物流コスト削減やリードタイム短縮など荷主企業が解決したい物流課題はさまざまありますが、効率的な輸送ネットワーク構築は重要なポイントのひとつではないでしょうか。一般的な輸送工程は、生産工場から倉庫へ輸送され、倉庫で保管した後に、各納品先へ配送するという流れになります。その流れとは別に、中間倉庫での保管を省いたスルー配送という輸配送モデルが存在します。輸送効率を向上させられる可能性を持つスルー配送とはどのような仕組みなのでしょうか。
本記事では、スルー配送の基本からメリット・デメリットについて解説していきます。輸配送を効率化させる一つのアイデアとしてご参考にしてください。
スルー配送とは
スルー配送とは、遠隔地に倉庫在庫を持たずに、製品を生産工場または本部倉庫から一括で集荷して、直接または間接的に遠方の納品先へ配送する仕組みです。中間倉庫を経由せずにダイレクトに納品先へ届けるため、製造から納品までのリードタイムが短い特徴があります。
スルー配送を活用すると、上の図のように生産工場で方面別(関東方面や関西方面など)に一括集荷して幹線輸送を行い、翌日早朝より各地域の中継地で幹線車両から荷降ろし・仕分けをして、すぐに二次配送が可能です。本来であれば関東や関西エリアにそれぞれ保管倉庫を設けて在庫を持つ必要がありますが、スルー配送の場合は各エリアに在庫を持つ必要がありません。
スルー配送を利用するメリット
一言で輸配送と言っても、直送便や混載便、路線便などさまざまな輸送形態が存在します。輸送する貨物の特徴やロット単位の大小、リードタイムなどの納品条件によって選択肢は変化するのが通常ですが、スルー配送には以下の3つのメリットが存在します。
・固定費の削減
・在庫の一元管理化
・リードタイムの短縮
それぞれ詳しく確認していきましょう。
固定費の削減
スルー配送最大の特徴であるエリア毎に在庫を持つ倉庫を配置しないことで、固定費を削減できます。自社保有の倉庫で保管する場合や物流会社と保管契約を結ぶ場合でも、倉庫料は毎月発生する固定費です。倉庫を借りる場合は、坪借りか個建てかによっても費用は変わりますが、固定費として費用は計上され続けます。
一方、スルー配送を利用すると、倉庫料という固定費がなくなり、全てが運賃として変動費化されます。幹線輸送料・中継地での仕分け料・配送料の全てを含めてスルー配送の運賃とすることが一般的です。また、倉庫が不要になれば保管料に加えて倉庫での荷役料を必要なくなり、輸送費と倉庫料トータルで物流費を抑えられます。
在庫の一元管理化
在庫保管する拠点を持たないことで在庫の一元管理を可能にできます。通常、全国規模での輸配送に対応するためには、全国各地に在庫を持つ拠点が必要になります。その場合、拠点毎に在庫管理が必要になり、在庫管理コストや余剰在庫の発生などが課題として挙げられます。
スルー配送により在庫を持つ拠点を生産拠点や本部倉庫に集約できれば、商品在庫の一元管理が可能となります。在庫の一元管理化は、在庫管理の手間の削減効果があることはもちろん、複数拠点それぞれに安全在庫を設けることにより発生する余剰在庫を圧縮できるため、生産計画や原料・資材発注業務の効率化にまでメリットは波及することが期待されます。
リードタイムの短縮
スルー配送のメリットの中でも、リードタイムを短縮できる点は大きな魅力です。働き方改革の影響もあり、路線便を始めとして各輸送において、リードタイムは長くなる傾向にあります。リードタイムが延びるということは生産側の目線からすると、原料や資材の到着が遅れることを意味して、生産リードタイムが延びる原因になります。その一方で、納品リードタイムは現状維持または早めて欲しいという要望を受けることもしばしばあるため、製造業は厳しい立場に立たされているのが現状です。
このようなリードタイムの課題に対してスルー配送は、解決策になり得る場面が多々あります。途中で倉庫保管することを前提にリードタイムを計算すると、中2日か中3日かかる納品先でもスルー配送を利用すれば翌日納品が可能な計算になります。スルー配送では、倉庫保管しないため、入庫処理と出庫時の引当処理が不要です。そのため、倉庫で入庫待ち商品の入庫処理と引当処理を待つタイムラグがなくなり、結果リードタイムが短縮されます。
スルー配送を利用するデメリット
コスト削減やリードタイム短縮といったメリットを持つスルー配送ですが、少なからずデメリットも存在します。ここでは、スルー配送を利用するデメリットを3つ紹介します。
・需要の波動性に対応しづらい
・スルー配送に対応可能な物流会社が少ない
・災害時に物流が止まるリスクが高い
それぞれ詳しく確認していきましょう。
需要の波動性に対応しづらい
スルー配送は、需要が上振れする繁忙期や下振れする閑散期に臨機応変な対応が取りにくい特徴があります。年間通して需要が一定であれば問題は起きませんが、出荷量が上下に振れてしまうと車両の手配に大きな影響が発生してしまいます。
スルー配送は、日々の出荷量に応じて幹線便や配送車両の手配をします。受注が締まって出荷量が確定してから車両出発まで時間がほとんどなく、追加の車両が必要になった場合は、出発前日や当日に探すため手配が難航することが多いです。反対に定期運行している車両や需要を見越して先に手配していた車両が不要になってしまった場合は、キャンセル料を支払ってキャンセルするか、他の輸送の仕事を手配するなどの対応に迫られます。
スルー配送に対応可能な物流会社が少ない
スルー配送を導入する上で、パートナー会社の選定が大きな壁になることがあります。スルー配送は、配送量や納品先が確定してから車両手配を完了させるまでに時間が短く、その手間は物流会社が請け負うことになります。
また、スルー配送は、幹線車両が仕分けをする中継地に早朝到着して、すぐに仕分けと配送車両への積み込みが必要なため、早朝勤務ができる仕分け人員の手配と早朝積み込みができる配送車両を確保しなければなりません。どれもハードルの高い対応になるため、実際に対応可能な物流会社を探せないケースも少なくありません。
災害時に物流が止まるリスクが高い
地震や台風など災害時に物流が全て止まってしまうリスクが高い点もスルー配送では懸念されます。遠隔地の倉庫に在庫を持っている場合、どこかの地域で災害が発生しても他のエリアから在庫を出して一時的に補うという対応ができますが、スルー配送の場合は在庫が生産工場のあるエリアにしかないため、物流が一気に止まってしまうリスクがあります。
遠隔地に在庫がある場合、関東にある生産工場と本部倉庫で災害が発生しても、東北、中部、関西、九州などの倉庫にそれぞれ5日分の安全在庫を持っていれば、在庫供給が止まったとしても5日間は各地域の納品に支障が出ない計算ができます。また、納品が滞ってしまう関東エリアに対しては、遠隔地の在庫を使って納品することも可能です。
一方でスルー配送の場合、各地域に在庫を持つ倉庫がないため、生産工場があるエリアで災害が発生してしまうと、最悪の場合、翌日からすぐに商品供給がストップしてしまう危険性があります。複数拠点で在庫を持たないことは、在庫の一元管理を可能にしてコスト削減ができるメリットがある反面、災害時などへのリスクヘッジができないデメリットがあります。
まとめ
今回は、スルー配送の基本からメリット・デメリットについて解説しました。スルー配送は、従来必要であった中間の倉庫保管を省略して、物流プロセスを合理化できる仕組みです。中間倉庫を介さないことで、製品製造後から納品までのリードタイムを短縮できるうえ、物流費の削減も可能にします。ただし、各エリア毎に在庫を持つ従来の形であればできる、トラブルや災害時に近くにある在庫を使用するなどのイレギュラーな対応が取りづらくなるデメリットも持ち合わせていることは認識しておきましょう。