モーダルシフトとは?メリットと普及を阻む課題を解説 | 東運輸グループ
2023.08.30
環境問題や労働人口不足など問題が山積みの物流業界において、課題解決のキーワードとして注目されるモーダルシフト。数十年も前から注目されているにもかかわらず、モーダルシフトが思い通りに普及しないのは、一体なぜなのでしょうか。
そこで本記事では、モーダルシフトの概要を整理したうえで、メリットと普及を阻む課題について解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
モーダルシフトとは
モーダルシフトとは、トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換することをいいます。日本の貨物輸送量の大半を担っているトラック輸送は、鉄道輸送や海上輸送に比べて環境負荷が大きい輸送モードです。そのため、環境負荷がより小さい鉄道や船舶の利用を拡大しようという流れが日本政府主導で積極的に行われています。
モーダルシフトという言葉は、省エネルギー対策として1981年に運輸省(現国土交通省)が出した「長期展望に基づく総合的な交通政策の基本方向」で初めて公式に使われました。戦後復興や高度経済成長に大きな役割を果たしてきた鉄道貨物輸送ですが、1960年代後半になるとモータリゼーションの進展や国鉄ストの影響により徐々にトラックによる貨物輸送が鉄道輸送を追い抜くようになりました。
さらに、1970年代後半には第二次石油危機が起こり、石油消費の抑制を目的としてモーダルシフトは注目を浴びました。当初は石油資源などへの省エネルギー対策が目的であったモーダルシフトですが、後に地球温暖化問題でクローズアップされ、現在ではSDGsの観点からもモーダルシフトは注目を集めています。
モーダルシフトのメリット
トラック輸送から鉄道輸送へのモーダルシフトには、以下3点のメリットがあります。
・CO2排出量の削減
・トラックドライバー不足の解消
・安定的に輸送コスト
それぞれ詳しく確認していきましょう。
CO2排出量の削減
モーダルシフトと聞いて、最もイメージしやすいメリットが省エネルギー化による「CO2排出量の削減」でしょう。世界規模で環境への配慮が強く求められる現代において、物流業界として輸送によるCO2排出量をどれだけ削減できるかは大きな課題です。
国土交通省のデータによると、輸送モードごとのCO2排出量は、トラック(営業用貨物車)が216g−CO2/トンキロなのに対して、船舶では43g−CO2/トンキロ、鉄道では20g−CO2/トンキロです。トラックとのCO2排出量を比較すると、船舶では約5分の1、鉄道では約10分の1となっており、モーダルシフトによるCO2排出量の削減効果がいかに大きいかがデータから読み取れます。
トラックドライバー不足の解消
労働人口の減少や労働環境整備の遅れに加えて、EC物流のような多頻度小口輸送の増加から、物流業界でのトラックドライバー不足問題は深刻化の一途を辿っています。今までトラック輸送していた貨物を、少ない労働力で多くの貨物を運べる「大量輸送機関」である鉄道輸送や海上輸送へ切り替えることにより、運び手不足の解消にも大きな期待がかかっています。
特に関東から九州のような中1日以上の運行が必要になる長距離輸送において、トラックドライバーの確保はより一層困難です。長距離輸送は中距離輸送や地場での近距離輸送と比べて、対応可能なトラックドライバーがそもそも多くいません。長距離輸送は、運行計画通りに運行ができない法令違反リスクや交通事故のリスクも高くなります。そのため、長距離の輸送経路では、安全確保や法令遵守の面でもトラック輸送から鉄道やフェリーなどへのモーダルシフトが普及しているのが現状です。
安定的な輸送コスト
トラック輸送の運賃は、年間通して考えたときに繁忙期には上がり、閑散期には下がります。もちろん、通期での定期便や路線便は時期によっての運賃の上下はまず起こりませんが、スポット便は需要と供給のバランスにより顕著に上がり下がりをします。その点、鉄道やフェリーは基本運賃が決まっているため、需要期によって運賃の変動リスクがなく、年間の輸送計画を立てるときに輸送費の予算が安定します。
また、大型トラック1台分の貨物量がない中ロット貨物を輸送したい場合、鉄道輸送の5tコンテナのサイズがフィットすることがあります。4tトラックでは積めない、でも大型トラックを手配するほどでもない中間の貨物量を5tコンテナがカバーしてくれます。本来であれば大型トラック1台分の運賃を支払い、半車分だけ積んで運行しなければならないところを、5tコンテナで運行することにより運賃を安く抑えられます。
モーダルシフトの課題
環境配慮やドライバー不足などの物流課題解決への切り札として大きな可能性を持つ一方で、モーダルシフトは期待されているほど進んでいないのが現状です。ここではモーダルシフトの普及を阻む課題について解説します。
・輸送コストがトラック輸送よりも高い
・輸送の利便性がトラック輸送よりも低い
・天候や災害に影響を受けやすい
それぞれ詳しく確認していきましょう。
輸送コストがトラック輸送よりも高い
トラック輸送から鉄道輸送や海上輸送などの「大量輸送機関」へ切り替えた際、コストメリットがでるのは、一般的に500km以上の長距離輸送だと言われています。500km未満の輸送において、トラック輸送から鉄道やフェリーへ輸送モードを切り替えてもコストが高くなってしまうとモーダルシフトのメリットを考慮してもなかなか推進できない事業者が多いというのが現実です。
また、500km以上の輸送でも輸送量によってのコストがトラック輸送よりも鉄道輸送の方が高額になることがあります。例えば、鉄道輸送で一般的に使用されるJR貨物の5tコンテナの場合、1コンテナであれば鉄道輸送の方が安価でも、2コンテナ同時に同一場所へ輸送するのであれば、結果的にトラックを1台手配するよりも費用が高くなることがあります。輸送モードと輸送コストの関係は、一概には言いきれませんが、モーダルシフトにより輸送コストがトラック輸送よりも高くなってしまうことがあるのは課題と言えます。
輸送の利便性がトラック輸送よりも低い
トラック輸送の最大のメリットの一つとして、積込場所や納品場所に縛られずに柔軟な対応ができる利便性が挙げられます。鉄道輸送や海上輸送の場合は原則、駅から駅、または港から港への輸送に限定されます。そのため、鉄道や船舶に積み込むまでの輸送や、到着駅や港から納品場所までの輸送は別途トラックを手配しなくてはなりません。「ドア・ツー・ドア」で1台のトラックで全行程を手配するときに比べてモーダルシフトの場合、手配の手間が発生してしまいます。
また、鉄道輸送や海上輸送の場合、時間の制約も受けてしまいます。鉄道やフェリーはダイヤ・スケジュールに従って運行されるため、トラックのように任意のタイミングで積込や出発はできません。また、「ドア・ツー・ドア」で運べるトラックに比べて、鉄道やフェリーは駅または港で積み替え作業が発生するためリードタイムが長くなったり、指定納品時間通りに納品できなかったりするケースがあります。
天候や災害に影響を受けやすい
モーダルシフトを進めるうえで、天候不良や災害の影響を受け易いという課題はよく考慮する必要があります。鉄道やフェリーは、強風や大雨に非常に弱く、台風時期には運休による遅延が頻繁に発生します。納品日を遅らせられれば大きな問題にはなりませんが、もし急ぎの納品の場合、急遽トラック輸送へ切り替える必要が発生します。
地球温暖化の影響もあり、毎年日本列島を巨大台風や災害級の大雨が襲います。もちろんトラックも全く影響を受けないということはありませんが、鉄道は著しく災害の影響を受けやすい特徴があります。大雨により山崩れが発生して、それにより線路が分断されてしまうと、復旧までに数ヶ月の期間を要するというケースもあります。同じ陸路の輸送でも道路であれば迂回できますが、線路の場合は、主要線路に被害が出ると迂回もできずに完全に止まってしまうというリスクがあることは頭に入れておきましょう。
まとめ
モーダルシフトは、地球温暖化対策として特に注目されていますが、省エネルギーや労働力問題の解消、道路混雑の緩和、交通事故防止など、さまざまな社会問題への対応策としても期待されています。
本記事をお読みいただき、今後の輸送のあるべき姿について考える機会になれば幸いです。